検証!物価上昇 ~外部データの分析~

  1. はじめに
  2. 今後の物価上昇の推移と影響対策の仮説
  3. 物価上昇・平均年収の近況分析
  4. 物価上昇・平均年収データの予測
  5. 検証結果
  6. おわりに


はじめに

昨今、いくつもの製品価格が上昇するニュースが多く取り上げられており、消費者の中には急激な物価上昇がいつまで続くのかという不安を抱えている方も多いと思います。
2023年4月・5月からは食料品から日用品まで、数千品を超える多くの商品が値上げし、総務省が発表する消費者物価指数の数値は、過去数年ぶりの上昇率を発表しています。

これら継続して起こる物価上昇の主な要因としては、以下の3つが挙げられます。

  1. 原材料価格の上昇::原油や食品などの原材料が上昇すると製品の生産コストに影響し、その分製品価格が上昇。
  2. 円安の進行による輸入品価格の上昇:日本国内で生産されない製品を輸入する際に、為替レートの変動や輸送費の上昇により、原価そのものが上昇する。
  3. 需要の増加:新型コロナウイルスの影響が緩和されていく一方、一部製品の需要増加により、供給量が追い付かなくなることで価格が上昇。

では、物価上昇は一体いつまで続くのか、また急激な変動による影響はどのようにして緩和されるのでしょうか。
今回は、総務省が取り扱っている小売物価調査のデータをもとに、今後も物価上昇にが継続するのかという点について検証をしてみます。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見を含んでいることをあらかじめお断りいたします。



今後の物価上昇の推移と影響対策の仮説

まず検証の仮説として、物価変動は今後鈍化した上昇が続き、これらの対策として賃金の上昇が伴ってくるものと設定します。これは一般的な解釈をもとに設定したものです。

今後の物価推移に関しては、平均年収が大きく影響していると考えられます。恐らくこの先、物価上昇が無くなり商品やサービスの値段が一定化することは考えられない為、基本的に上昇し続けると思われます。ただ、物価が急上昇し続けることに対して、日本国民の平均年収が変化しなければ、消費者への負担が大きくなり「悪いインフレ」に繋がると想定されます。
これらによる影響を緩和させるためには、日本国民の平均年収の上昇が欠かせませんが、物価上昇に伴って企業のコストが増加する可能性もあるため、賃金の引き上げを行うことが難しくなる場合もあります。

以上のことから、消費者負担を軽減させるためにも今後の物価上昇幅は、近年と異なり鈍化した上昇に変化していくと推測しております。
この仮説の確からしさを総務省で取り扱っている以下2つのデータを基に見てみました。このデータを分析し、過去から現在、その他にも予測データ作成して今後の動向を把握していきます。

  • 小売物価統計調査(動向編)
    • 消費生活上重要な小売価格、サービスの料金の調査結果
  • 民間給与実態統計調査
    • 民間の事業所における年間の給与の実態を、企業規模別などに明らかにしたもの



物価上昇・平均年収の近況分析

小売物価統計調査(動向編)
まず最初に小売物価統計調査のデータを使用して、幾つかの製品やサービスの平均価格推移を見てみました。
表示期間は2011年1月から2023年2月までとなり、平均物価の対象地域として、東京都(特別区部)・大阪市・京都市を表示しています。

上図は対象製品を物価変動の影響を受けやすいトイレットペーパーに絞ったグラフになりますが、2011年から2017年までは大きな価格変動は見られなかったものの、その後急激に価格が上昇し、2023年現在での平均価格は745.5円にも昇りました。
原材料のパルプを輸入していることや、物流費がかさんでしまい、コストが上昇してしまったことが原因と考えられます。

他の製品やサービスでも、価格変動の推移を見てみましょう。

こちらは、為替変動の影響を受けやすい輸入品の牛肉の価格変動をみてました。
近年の2020年までは価格が落ち着いていましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2021年からの「ミートショック」により一気に上昇しはじめました。こちらも他の製品と同様に、供給量の低下や、需要の拡大が要因で物価上昇が生じたと考えられます。
このようにデータを確認することで、過去の変動を可視化でき、上昇幅や変動額をより一層把握しやすくなっています。

民間給与実態統計調査
次に、民間給与実態統計調査のデータから企業規模ごとの、平均年収をトイレットペーパーの価格変動と比較してみます。
なお、こちらのデータは2011年から2021年までの推移となります。

こちらのデータをみることで、近年の平均年収が不変であることが把握できます。
上図の様に、平均年収が変わらない状況下で物価上昇が継続されると、同じ賃金でも購入できるものが減少していき、実質賃金の低下が発生する可能性があります。そのためにも、物価上昇の影響を緩和させるためには、賃上げが最も効果的な対策方法かと推測できます。



物価上昇・平均年収データの予測

次に、先程グラフ化した小売物価統計調査民間給与実態統計調査の2つのデータの、今後の動向を予測してみます。なお、今回の予測には指数平滑法(過去の予測値と実際のデータ値を用いて、時系列上の将来の数値を予測する方法)を用いました。

小売物価統計調査(動向編)

先程も取り上げた、トイレットペーパーの価格推移から、2024年の平均価格を予測したところ、983.4円という結果が表示されました。2017年頃からの価格が急激に上がり始めたため、大きく上昇する予測となりました。

その一方で、輸入品の牛肉の価格を予測したところ2024年の価格は336.2円と、急激な価格上昇ではなく多少鈍化した上昇額になっています。このように、幾つかの製品によっては上昇額が急激なものもあるかと思われますが、全ての製品やサービスの価格変動を予測してみると、鈍化した上昇が予測されます。

民間給与実態統計調査

しかしながら、平均年収の今後の数値を予測してみたところ、現状とほとんど変わらない状況となっています。
もし、この予測機能のように民間平均年収が不変のまま、物価だけが上昇し続けることで、先にも申し上げましたように、実質賃金の低下に繋がってしまうと考えられます。



検証結果

これまで2つのデータを分析・予測してみましたが、その検証から以下の結果が判明しました。

  • 幾つかの製品は今後鈍化した物価上昇が見込まれる
  • 一方で平均年収は不変が予想されている

先程もお伝えしたように、幾つかの製品やサービスの価格は今後も大幅に上昇が見込まれ、消費者負担は増加する傾向にあります。その負担を少しでも軽減するには、物価上昇と似た上昇率の賃上げが必要になるでしょう。

賃上げの進行が弱いと、平均年収の実質価値も減少する可能性があるため、厳しい状況が長引くことが想定されます。そのため、民間平均年収の不変が続く中で、消費者負担の増加を防ぐために、昨今のような急激な上昇ではなく、鈍化した上昇が見込まれるでしょう。

今回分析した結果のダッシュボードを弊社のTableau Publicにも表示しますので、他の商品の推移等が気になる方は是非操作してみてください。

https://public.tableau.com/views/_16844008143200/sheet1?:language=ja-JP&:display_count=n&:origin=viz_share_link



おわりに

今回のコラムでは、製品価格と平均年収に関するデータを取り扱って、Tableauで分析・検証した結果を掲載しました。

現状は、物価のみの上昇が続いているため、実質賃金の低下が発生していると思われます。しかし、今後物価上昇が緩やかになり、需要が追いつけば企業の利益が上がり、賃上げも実施でき景気も上昇するため、状況が好転するかもしれません。

このように無料公開されている様々なデータを分析することで新たなインサイトを得ることができ、現状把握や予測機能の使用によって、事実に基づいた意思決定に繋げられます。多くの情報が交差する中、データを可視化することは膨大な情報を視覚的にとらえることあ可能となり、データの傾向や関係性を把握することに繋がると弊社は考えています。